「ジダンのことは、(話題からは)置いておこう。彼はマドリーの伝説だ。」
このセリフは、誰であろう前監督サンティアゴ・ソラーリの
就任会見における、「あなたは新しいジダンですか?」という質問への回答だ。
そもそも、このような質問が投げかけられることが、マドリディスタのジダンへの期待をすべてを表している。
ジダンがほんの9ヶ月前まで何を成し遂げたかは、この文章をお読みの方はご存知だろう。
ここでは、なぜ「ジダン」という3文字に、レアル・マドリーやそのファンが総じて心を踊らせ、
すべてのタイトルを失った悪魔の2週間から回復する希望の光を注ぎ、立ち直る力があるのかについて述べたい。
レアル・マドリーにとってジダンとは何か。
一言で言うと英雄、というよりも神話の存在に近い。
伝説のボレーの9回目も、
カルロ・アンチェロッティのアシスタントコーチだった10回目も、
当事者だった11、12、13回目も、
過去20年、レアル・マドリーがCLを獲得した時、ピッチには常にジダンの存在があった。
連覇が出来ないことが、ある種大会のプレステージであったCLで、3連覇。
レアル・マドリーにとって、CLはすべてである。
リーグ戦では、ご存知のように、ペップ・グアルディオラの出現以降特に、バルセロナの支配を許している。
それでもレアル・マドリーのファンは、鼻高々に、「過去5年で4回のヨーロッパチャンピオン」だと
気後れなどなくふんぞり返っている。
そのタイトルに過去20年ですべて関与しているのがジダンなのだ。
その彼が、「良い思い出のまま」であることを放り投げて、クラブのために帰ってきてくれた。
引き受けなければ、栄光のまま人々の記憶に残れたにもかかわらず、
それでも「マドリーが好きだ、フロレンティーノから頼まれたら断れない」と帰ってきてくれたのだ。
・新たなる挑戦
ジダンにとっては、求められていることは第1次政権とは微妙に異なっている。
第1次政権はベニテス政権後で、選手のモラルは地に落ちていたが、スカッドは揃っていた。
今いる現有スカッドだけに集中すればよかった。
第1次政権下のジダンはどちらかというとチームに変化を与えることを好まず、(昨年の冬、ケパの獲得にストップをかけたのが良い例だ)
現有スカッドの運用によって、最大限の力を、(ほとんどCLすべてに)注いで、成功してきた。
しかし今回は、彼自身が会見で言及したように、
変化をチームにもたらさなければならない。
「9回目」以外はジダンとともにいたクリスティアーノはもういない。
これまでは補強にはほぼ無関心だったジダンだが、チームの設計面も求められることになる。
フロレンティーノは、ジダンのやりたいようにやらせるだろうから。
ジダンは今回は、会長役でもあるのだ。
・魔法をかける存在
もうジダンの現役時代をリアルタイムで見ていない方も多いと思うが、
ジダンは、ピッチ上では魔法を見せてくれる存在だった。
現在の選手たちは、現役時代ともにプレー経験もあるラモスも含め、ほとんどがジダンを多感な時期に見て育っている。
モドリッチやマルセロは、インタビューで彼への心酔を隠さない。
ファンだけでなく、選手たちにも彼は憧れの存在なのである。
監督でありながら練習に参加するジダンが、現在のマドリーのスカッドの誰よりもスキルフルなのは、
ファンには周知の事実だ。
最初に監督になった時、多くの人々は、現役時代の魔法が、「名選手、名監督にあらず」の法則で、
解けてしまうのではないかと複雑な思いで危惧したが、
彼は裏切らなかった。
レアル・マドリーのファンに無根拠な自信を与えてくれて、そのとおりにさせてくれる存在だった。
未だに魔法はかかったまま。願わくば、今回も醒めないで欲しい。